014 ワールド・ビジョン・ラオスの地域開発援助スタッフたち
ワールド・ビジョン・ラオスの地域開発援助スタッフたち
2009年8月。私は国際NGO「ワールド・ビジョン・ジャパン」スタッフの、支援地訪問に同行。ラオス農村部に暮らす人々が抱える問題点を視察しました。そこで出会えたのが、「ワールド・ビジョン・ラオス」(以下WVL)の、3人のラオス人スタッフでした。一歩ずつでも自分の国の状況を良くしていきたい、という彼らの熱意と、ラオスの「今」を少しでも感じとっていただければ幸いです。
ラオス人民民主主義共和国は、人口およそ570万人の内陸国。首都ビエンチャンも、我々が訪れたいくつかの村も、治安は基本的に良く、出会った人は皆「シャイだけど温かなハートを持った人」ばかり。そんな彼らと接していると、つい忘れてしまうのですが、他のアジアの発展途上国と同様、慢性的な貧困問題と常に隣り合わせにある状態です。平均寿命は61歳で、5歳以下の乳幼児死亡率は、1000人中98人。児童の53%が栄養不良という統計が出ています。
開発に当たり、この国が抱えている大きな問題は、「教育」と「公衆衛生」。小学校の平均就学率は、政府の発表では83%。しかしヒアリングなどを通し、実際のところ卒業までできる子どもは、そこからガクッと落ちることがわかりました。また公衆衛生の問題も、都市部と農村部とで大きく異なっており、幹線道路、あるいはきれいに慣らされた道路に繋がっていない集落部になるほど、衛生環境は劣悪になります。
1950年、アメリカ人のキリスト教宣教師によって設立された「ワールド・ビジョン」は、「途上国の子どもの健やかな成長を支援する」ことを活動の主眼におきながら、地域の貧困を改善するための開発援助や、緊急人道支援、アドボカシー(市民社会や政府への働きかけ)を行っています。地域開発支援においては、開発途上国の子どもたちが未来への希望を持ち、健やかに成長することができるよう、地域の貧困の解決を目指す「チャイルド・スポンサーシップ・プログラム」を行っています。それらの支援を受ける側として、2003年からチャイルド・スポンサーシップによる活動を開始したのがWVLです。これまでは緊急人道支援の活動がメインで、長期的な地域開発支援はまだ始まったばかりだそうですが、国際協力組織としては、ラオス一大きな規模とのこと。国民の多くがワールド・ビジョンの存在を知っていて、それを聞いたワールド・ビジョン・ジャパンのスタッフは、非常にうらやましそうでした。
WVLは現在、チャイルド・スポンサーシップによる19の「地域開発プログラム」(Area Development Program、以下ADP)を進めていますが、私たちはその中の1つ、「パランサイ」という地域のADPを視察しました。首都ビエンチャンから四駆の自動車に乗っておよそ半日の場所にある、パランサイADP。1週間にわたる視察の中で、私たちにラオスの地域開発の現状と問題点を教えてくれたのが、3人のラオス人スタッフです。
Vatsana(ワサナ) パランサイADPのリーダー
50代の、恰幅のよい男性。初めて出会った時から、他のラオス人男性の持っている雰囲気とは少し違うなと思っていたのですが、それもそのはず。子どものころ内戦により弟と2人きりでアメリカ・ロサンゼルスに亡命。中華料理店などで働きながら弟をひとりで育てる、という大変な苦労をなさったのだそうです。その後も技術者として、数十年間のあいだアメリカで生活していましたが、3年ほど前にラオスに帰郷。ラオスの現状を知り、故郷の発展のために力を尽くす決意をし、WVLのスタッフになったということでした。
2007年からパランサイ地域の状況調査に着手し、活動計画を策定。2008年11月から本格的な活動を開始したVatsanaのチームですが、彼も彼の部下も、本当にタフ。洪水が発生するたびに四駆を走らせ、車が入れないところでは、足もとぬかるむ中をひたすら歩いて集落に入っていって状況を尋ねたりすることは、日常茶飯事。我々が視察を行う前の夜にも、寝袋を持ってその村に入り、村人に明日の段取りを夜通し説明し、協力を求めてくれたのだそうです。そのおかげで、当日私たちが到着した際には、村の長老主導で昔ながらの歓迎の儀式が盛大に行われ、非常に忘れられない体験をすることができました。
ワールド・ビジョンの支援は、地域の人々の中からリーダーを育成し、彼らが自発的に村の状況を改善していくことを狙いとしていますが、Vatsanaも例にもれず、村人が自発的に村の状況を考えるよう働きかけていました。(もちろんその都度、村にいま足りないもの・村で起こっている問題についての聞きこみは、していましたが)支援によって建てられた新しい校舎で授業を受ける子どもたちを見ながら、穏やかな微笑みを浮かべている様子は、「みんなのお父さん」という感じでした。
地域に入って2日目。Vatsanaは、スタッフと一緒にまとめてくれた資料を見せながら、プレゼンテーションをしてくれました。
■パランサイADPは、54の村からなる。そのうち15の村は、幹線道路から非常に遠い場所にあり、したがって貧困度も極めて高い。
■政府発表では、「この地域で安全な水が確保できている村は38。トイレのある世帯は、1453世帯のうち256世帯」とあるが、実情はもっと悪いだろう。
■パランサイADPチームは、「3つの主な問題」と「5つの主要プロジェクト」を提示。5年ごとに15の村で支援活動を予定している。以下が、5つの主要プロジェクト。上から3つが、メインとして取り組もうとしている分野である。
・education(支援により3つの小学校、2つの中学校が新設されているが、教師の不足や貧困によって学校に通えない・通い続けるのが難しい子どもが少なくない)
・food security(子どもの栄養不良状態の改善)
・sponsorship(地域内で、2000人の子どものスポンサーを見つける必要がある。いまはまだ、1000人くらい)
・health(公衆衛生の改善)
・leadership(地域のリーダー育成)
いずれの村でもまずは「education」と「food security」の向上を目指しており、道路・電気などインフラの整備はそれが整ってから、という考えのもと、プロジェクトが進められているということでした。また、それらの支援と並行して、新しく加わったスタッフの教育もしなければならない状況だそうです。Vatsanaのチームは今日も、精力的に活動していることでしょう。
Gai(ガイ) WVLとラオス政府との折衝を担当
目が大きくスレンダーなGai。音の響きから男らしい名前だな、と思っていたのですが、本名はLatthaya(ラッタヤ)といい、Gaiはおばあちゃんにつけられたアダ名だということが、旅も終盤にさしかかった時点でわかりました。その意味は?と尋ねると・・なんと、「Chicken」!ラオスでは、カワイイもののくくりに入るのよ、と言っていましたが、私たち日本人には、よくわかりません。WVLで、パランサイADPを含むいくつかのADPで、WVLとラオス政府や行政機関との折衝を行っています。というのもWVLは地域の政府の役人に面会・説明を行い、許可をもらった上で活動する必要があるからです。私たちがいるあいだも、地域のお役人が3名、立ち会いにきていました。
村を訪れた際、Vatsanaのはからいで学校に子どもや母親を集め、年に定期的に行っている健康診断や妊婦への衛生教育、子どもへの物資配給の様子を見せてくれたのですが、面白いなと思ったのが、WVLが用意した(チャイルド・スポンサーシップの支援金で購入した)制服・文房具・遊具などを、立ち会いに来ていた地域の役人から、それぞれの子どもに手渡ししている様子。なんでも役人は地域の人々に非常に尊敬されているから、なのだそうです。
GaiもVatsanaと同様、非常に元気。洪水などで集落への行き来が遮断された際は、「腰まで水に浸かりながら村まで様子を見に行くの」と話していました。
ワールド・ビジョンのワッペンがついた黒いポロシャツを着て、ほぼ毎日、私たちに明るく話しかけてくれたGai。最終日、私たちがパランサイを去る際にはピンク色のワンピースで現れました。それは「男性と同じくらいハードに動き回る生活を日夜している女性スタッフも、私と同じ女の子なんだよな」と、彼女への親近感が高まった瞬間でもありました。
Na(ナ) WVLのコミュニケーションスタッフ
そして、私たちを最初から最後までアテンドし、私たちがストレス無く視察できるよう力を尽くしてくれたのが、WVLのコミュニケーションスタッフ・Naです。「体調はどう?」「何か食べたいものはない?」と、終始気づかってくれたり、「あなた肌キレイね。SK-Ⅱを使ってるの?」などとジョークを言ったりと、彼女のホスピタリティが無ければ、この旅もこれほどまで楽しく・有意義なものにはならなかったことでしょう。(見た目もちょっと肝っ玉母さん風で、私たちは最後まで「おかん」と呼び続けました)
Naはラオスのかなりの上流階級の生まれで、もとは政府で働いていたというエリートなのですが、「自分がラオスにとって本当に役に立つ方法は何だろう」ということを追求した結果、WVLに転職したのだそうです。移動する四駆の中で「今の仕事こそが、私にとって本当にやりたいことなの」と、何度も話してくれました。また私が、「ラオスの人々は、とてもあたたかく素朴。もし開発が進んでしまったら、その良さも同時に失われるのではないかと、我々日本人は勝手ながら思ってしまいましたが、あなたはどう考える?」という質問をぶつけた時も、「それは私もそう思う。ラオス人のホスピタリティに関しても、自然に関しても。サステナブルな成長ができるような開発が手伝えるよう、常に思っているわ」という答えが。ラオスで生活しながら、同時に、グローバルな視野で状況を捉えている彼女に、深い尊敬の念を抱きました。
私たちの国が送った支援が、途上国の貧困を改善する。ここ数年、この仕事のお手伝いをしてきたにもかかわらず、これまでは支援先で誰がどのように状況を変えているのか、きちんと考えていなかったというのが、正直なところです。
しかしこの度ラオスを訪れ、WVLの現地スタッフたちの誠実さと情熱、勇気を目の当たりにしたことで、私は1段階大きな視野を得ることができたように感じています。日本でももっともっと、支援先の生きた情報が紹介されるべきだと、強く感じました。そして、地域の人々が今の素敵な笑顔を大事にしながら、貧しさを克服していくために、これから何をしていけばいいのか。そういったことを考えながら、支援というお手伝いをしなければならない。そう強く思った視察でした。
寄稿:小野麻利江(コピーライター)